小貝川に存在する三日月湖に囲まれた謎の輪中集落について、あなたは知っていますか?
この集落は名前もない水辺に囲まれ、地図上では見過ごされがちな場所ですが、実際に訪れてみると独特な風景と静けさが広がっています。
なお、輪中集落とは一般的に周囲を河川と堤防で囲まれた集落を意味し、濃尾平野に多く存在します。
今回ご紹介する集落は三方を三日月湖、一方を河川と堤防に囲まれていますので、一般的な意味合いでは輪中集落とは言わないかもしれません。
しかし関東地方にもこんな珍しい集落があるということをご紹介したいと思い、記事にしました。
この記事では、その三日月湖の誕生の背景や謎の輪中集落へのアクセス方法、そして地元の人々の生活風景について詳しく紹介します。
小貝川の三日月湖に囲まれた謎の輪中集落とは?:謎集落の概要
まずは上空から見てみよう
こちらがその三日月湖です。右側に流れるのは小貝川(こかいがわ)で、この三日月湖はかつての小貝川の一部が切り離されてできたもののようです。
正式な名称は無いようですが、内側には民家や田畑、そして緑色の沼のようなものが見えます。これこそが謎の集落とされる場所です。
小貝川とその三日月湖の位置
小貝川は関東平野を流れる全長111.8kmの一級河川で、あの坂東太郎(関東で一番大きい川という意味)という異名を持つ「利根川」の支流にあたります。
この小貝川は「暴れ川」としても知られ、これまでも頻繁に洪水を引き起こし、その流域には多くの三日月湖が形成されています。今回紹介する三日月湖も、その一つです。
この三日月湖は美しい馬蹄型を描きながら謎の集落を包み込んでおり、圏央道と国道294号線が交差する常総ICのすぐ近く、茨城県つくば市と常総市の市境に位置しています。
三日月湖と謎の集落の誕生
実はこの三日月湖は自然にできたものではなく、河川改修によって人工的に作られたものです。
かつてこの地区の小貝川は東へ大きく蛇行していましたが、洪水対策のために真っ直ぐな新水路が造られ、その結果この三日月湖が誕生しました。
元々この地域では小貝川がつくば市と常総市の市境でしたが、蛇行した小貝川に面した地域が新水路によって分断されることとなりました。
この改修によって、新水路より常総市側につくば市の飛地が誕生することとなりました。これが今回の謎の集落、つくば市上郷地区なのです。
三日月湖ができる仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
小貝川の三日月湖に囲まれた謎の輪中集落とは?:三日月湖と集落
三日月湖の全貌
この三日月湖と周辺エリアは、このようになっています。
三日月湖を一周した場合の面積は約23万㎡で、東京ドームで例えても良く分からないと思うので上野公園の不忍池で例えますが、約2.1湖分の広さとなります。
なお、今回ご紹介するエリアには名も無き水辺が4箇所登場します。この記事では分かりやさを優先するため、沼探のセンスで勝手に名前をつけさせて頂きました。
- 釣沼(仮称)
- 上空から馬蹄型に見えた三日月湖。釣り堀として整備されているので「釣沼」。主な生物はヘラブナと釣り大好きオジサン。
- 鳥沼(仮称)
- 野鳥の楽園になっているので「鳥沼」。つくば市と常総市の市境となっている。主な生物は野鳥の皆さん。
- 北外沼(仮称)・南外沼(仮称)
- 一番外側にあるので「外沼」。北外沼と南外沼に分かれている。主な生物は確認できず。(しかし生物の気配はあり)
つくば市と常総市の市境
これまで説明してきたように、洪水対策による河川改修によって、つくば市上郷地区は新水路対岸の飛地となってしまいました。
一見すると市境は釣沼だと思いがちですが、実際には鳥沼を通っています。
このことから、鳥沼も小貝川の三日月湖である可能性が考えられます。さらに、釣沼の外側にある北外沼や南外沼も、その位置関係から小貝川の三日月湖の一部である可能性が浮上しました。
現時点では、この仮説を裏付ける確かなエビデンスは見つかっていませんが、今後新たな情報が得られれば、この記事を更新していこうと思います。
小貝川と三日月湖で囲まれたエリア
小貝川と三日月湖(釣沼)に囲まれたこのエリアは、2つの主要な部分に分けられます。1つはヘラブナ釣りで知られる吉野公園エリア(常総市)。もう一つは集落がある上郷地区(つくば市)です。
鳥沼は約2/3が常総市に含まれますが、実際には常総市とつくば市で、ちょうどお弁当箱の仕切りのように区切られています。
そのため、西側の鳥沼(常総市側)は吉野公園に属し、東側の鳥沼(つくば市側)は上郷地区にある沼といったところでしょう。
しかし、鳥たちにとってはそんな境界は関係ないので、この記事では特に区別せずに扱います。
小貝川の三日月湖に囲まれた謎の輪中集落とは?:吉野公園エリア
吉野公園の概要
吉野公園は市営のヘラブナ釣り場として知られ、釣り好きが集まる人気スポットです。公園は自然豊かで、美しい景観が広がる中、釣りを楽しむことができます。
釣り場は非常に整備されており清潔感が保たれています。釣り場が閉まった16時以降、係員さんが広大な桟橋をデッキブラシで丁寧に掃除している姿が印象的でした。
吉野公園のヘラブナ釣り
吉野公園はヘラブナ釣りの名所として知られ、大型のヘラブナが釣れて元気の良い引きが楽しめると、釣り愛好家から高く評価されています。
お話を聞かせて頂いた親切な係員さんによると、ヘラブナは毎年四国などから仕入れており、11月から12月に放流されるため、その時期を狙って訪れる常連客も多いとか。
この日は炎天下で釣り人は少なかったものの、釣果の悪かった人でも20〜30匹は釣れたそうで、名人クラスの釣り人になると1日で150〜160匹も釣り上げることもあるそうです。
これだけ楽しめて1日1,500円という価格は、さすが行政運営ならではの良心的な設定です。施設内には食事処がないため、お弁当の持ち込みや、最寄りのコンビニを利用するのが便利です。
吉野公園の見どころ
吉野公園は桜の季節になると、お花見スポットとして多くの人で賑わいます。また、この公園には珍しい種類の蓮が生息しており、専門家からも注目を集めています。
公園内からは鳥沼の美しい景色を楽しむことができ、自然を感じながら散歩するのに最適な場所です。
「釣り堀」のイメージが強い公園ですが、釣り用桟橋に立ち入らなければ釣り人を気にすることなく、緑地をゆったりと散策できます。
常総市役所に確認しましたが、「釣りをしない場合の入園料は無料」とのことですので、気軽に訪れて自然を満喫してください。筑波山の景色も見事ですよ。
そんな吉野公園、市民の憩いの場としての整備も進んでいるようです。その一環として設置されたのが、あの有名なネコ型ロボットの「瞬間移動ドア」。
これなら帰り道の交通費も節約できる!と意気揚々とドアを開けましたが、残念ながら故障中?のようです。修理が待ち遠しいですね。
吉野公園と集落の分断
吉野公園と集落(上郷地区)の間は高いフェンスや鳥沼によって隔てられており、直接行き来することはできません。
地図で見ると、吉野公園内に架かる橋(吉野橋)が集落へと続く唯一の橋に見えるかもしれませんが、実際にはこの橋は公園内で釣沼を渡るためのものです。
つまり、吉野公園と集落は完全に分断されているのです。
集落へ向かうには、堤防上の道を通るしか方法がありません。この近くに見えても実際には遠いという距離感が、集落の独特な雰囲気をさらに際立たせています。
まさに天然の要害です。
小貝川の三日月湖に囲まれた謎の輪中集落とは?:謎の集落エリア
集落へのアクセス方法
上郷地区の集落にアクセスする道は、堤防上の道路1本だけです。
小貝川に架かる新雷福橋の付け根を起点に堤防上の細い道を進み、北側から集落に入って堤防を降りるルートが唯一の入り口となります。
一応、集落から堤防沿いの道を通って釣沼の南岸へ回るルートも存在しますが、これはほぼ畦道のようなものなので、地元の軽トラック以外が通行するのは避けた方が賢明です。
堤防上の道は、新雷福橋のアンダーパス部分が雨でしばしば冠水するため、この集落へのアクセスがいかに脆弱かが浮き彫りになります。
この脆弱なアクセスは、車両だけでなく徒歩でも同じような状況です。そのため、この集落はまるで外界から孤立しているかのような印象を受けます。
集落の様子
集落の雰囲気は静かな農村そのもの。しかし、意外にも農業用の軽トラックが頻繁に出入りしている様子が見られます。
集落内の畑は狭く、ここで本格的に農業を営むには限界がありそうですが、出入りしている車両の多くは橋を渡って小貝川の対岸へ向かっています。
おそらく河川改修前から小貝川(新水路)対岸の上郷地区に田畑を持つ住民が、このエリアに居住しているのでしょう。
集落内では、主に高齢の住民が庭先で小さな畑を耕す姿が見られました。撮影は控えましたが、印象としては「中野」という苗字の住民が多く、地域独特の歴史やつながりが感じられました。
野鳥の楽園
鳥沼の約2/3は常総市に属し、吉野公園の一部となっています。吉野公園側からも鳥沼の景色を楽しむことができますが、野鳥観察を目的とするなら、実は集落側がおすすめです。
その理由は、吉野公園が釣り人や観光客で賑わうため、野鳥たちは公園側から見て茂みや木々に隠れていることが多いためです。
一方、集落側は地元の住人しかほとんど通らないため、野鳥たちも安心してくつろぎ、のびのびとした様子を見せてくれます。
ただし集落側は住宅地であるため、野鳥観察をする際は近隣住民に迷惑をかけないよう配慮が必要です。
小貝川の三日月湖に囲まれた謎の輪中集落とは?:北外沼・南外沼
今回の探索で、吉野公園エリアや集落エリア(上郷地区)に属さない沼が2箇所見つかりました。どちらも厳密には常総市に位置し、吉野公園の釣り堀として知られる釣沼の外側に位置しています。
北外沼
吉野公園駐車場の入口脇にひっそりと存在する小さな沼。住宅街に溶け込んでおり、人工的な感じはなく自然のまま残っている印象です。
現在、農業用の溜池として使われている可能性はありますが、周囲を見ただけでははっきりと確認できませんでした。
近所の子供たちに注意を促す看板もどこか味わい深く、この場所が三日月湖であることを期待しつつ、今回の記事でご紹介することにしました。
南外沼
この沼は老人ホームの前に位置し、しっかりとしたサイズ感を持っています。見たところ人工的なものではなく、埋め立てられずに残された自然の沼のようです。
さらに航空写真を確認すると、北外沼、吉野公園駐車場横の芝生、そして南外沼がツライチ(なんとなく繋がってたように見える形)になっていることが分かります。
仮説ではありますが、吉野公園の駐車場横にある芝生は埋め立てられた跡の可能性があり、外沼も三日月湖の一部だったと考えるのが自然ではないでしょうか。
古地図などを見る限りでは限りなく「三日月湖で確定」っぽいのですが、引き続き調査を続け、分かり次第また記事を更新させて頂きます。
小貝川の三日月湖に囲まれた謎の輪中集落とは?:アクセスと注意事項
公共交通機関でのアクセス
東京方面から
JR常磐線取手駅、またはつくばエクスプレス守谷駅から関東鉄道常総線を利用し、「三妻駅」で下車します。三妻駅から吉野公園までは徒歩で約30分(約2km)です。
また三妻駅前ではレンタサイクルを借りることもできるので、歩くのが苦手な方は自転車を借りて向かうのもおすすめです。
周辺の歩道状況
三妻駅から吉野公園までの道は、歩道が整備されている道路が殆どなので、安心して歩くことができます。
ただし、季節によっては歩道上に雑草が生い茂り、歩道が草むらのようになっていることがあるので、それなりの覚悟と準備が必要です。
周辺のお食事状況
公共交通機関でアクセスする場合、吉野公園や三日月湖周辺、さらには三妻駅前にも飲食店はありません。現地での食事は、この記事のマップにも載っているコンビニを利用する形になります。
食事にこだわりたい方は、関東鉄道に乗車する前に、あらかじめ済ませておくことをおすすめします。
自動車でのアクセス
東京方面から
圏央道を利用する場合は常総ICから国道294号線を南下、常磐自動車道を利用する場合は谷和原ICから国道294号線を北上し、「三坂新田西」交差点を県道123号線「つくば」方面へ進んでください。
右手にファミリーマートが見えてきたら、その交差点を右折すると、すぐ左手に吉野公園の駐車場があります。
車で訪れる際は、吉野公園駐車場をカーナビに目的地として設定しておくと便利です。駐車場は無料で利用できます。
自動車でアクセスする際の注意事項
堤防上の道路は河川管理用の道路であり、一般車両の通行は「遠慮してください」という扱いになっています。
この道は非常に狭く、すれ違いも困難なため観光目的での車両通行は控えるようお願いします。また地元の方々の生活道路でもあるため、訪問者が車で利用することは避けてください。
さらに集落内(上郷地区)も同様に道幅が狭く、車を駐停車できるスペースはありません。住宅街となっているため、観光目的での車両の侵入はご遠慮ください。
訪問する際は近隣の駐車場を利用し、徒歩で散策することをお勧めします。
周辺のお食事状況
自動車でアクセスする場合は移動範囲が広がるため、周辺の飲食店も利用しやすくなります。
私たちは電車と徒歩で訪れたため実食レビューはお伝えできませんが、Googleマップ上でチェックしているおすすめのお食事処をいくつかご紹介します。
- あぶらや(公式HP)
- 住所:常総市三坂町1031-1
電話:0297-22-7438
説明:ボリュームたっぷりの手作り出来立て定食をリーズナブルに味わえるお店。
- 中華そば あたり(騰匠俐)
- 住所:常総市中妻町3971
電話:0297-21-6805
説明:煮干し出汁にこだわった本格的な中華そばが味わえるお店。
- 寿司処 いしかわ
- 住所:常総市川崎町乙698
電話:0297-22-7447
説明:美味しい海鮮が味わえる地元の人気店。ランチタイムが短いので要注意。
- 道の駅 常総(公式HP)
- 住所:常総市むすびまち1番地
電話:0297-38-7570
説明:言わずと知れた常総市のテーマパーク。家族連れならここ一択です。
まとめ
小貝川に実在する三日月湖と、その湖に囲まれた謎の集落。訪れるまでの道のりや、周辺の自然環境、そして地元の人々の生活は、私たちに多くの発見と驚きを与えてくれました。
三日月湖という地形が生み出す独特な雰囲気は、ただの観光スポットでは感じることのできない静かな魅力があります。
もしこの記事があなたの興味を引いたなら、ぜひ一度現地を訪れてみてください。実際に目で見て、感じた風景は、さらに深い印象を与えてくれるはずです。
これからも沼探では、まだ知られていない場所や魅力的なスポットを紹介していきますので、次回の記事もお楽しみに!
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